結論から先に言うと
私道に接する土地では、「持分があるかどうか」と「通行・掘削の権利があるかどうか」は必ずしもイコールではありません。持分がなくても通行地役権や囲繞地通行権で通れるケースはありますし、逆に持分があっても掘削の承諾は別途必要になるのが実務の感覚です。この記事では通行権の種類、通行・掘削承諾書の中身、負担割合の考え方を整理します。判断の土台になる知識を体系的に固めたいなら、通信講座比較ページも参考にしてみてください。
私道が絡む土地の検討で、仕入れ営業がいちばん時間を取られるのは「持分の話」だと思われがちだが、実際にはその先の「通行できるか」「掘削できるか」のほうが厄介なことが多い。持分の有無と通行・掘削の可否は別の話であり、この二つを混同したまま話を進めると、決済間際になって条件がひっくり返ることもある。以前の記事「セットバックとは?不動産仕入れ営業が現地確認で見るべきポイント」では私道持分の3パターン(共有持分型・単独所有型・持分なし)を整理したが、今回はそのうち「通行権」と「掘削承諾」にしぼって、もう一段深く掘り下げる。ハブ記事「測量士補の知識は不動産の仕入れ営業にどう活きる?」から枝分かれしたテーマのひとつでもある。
なお本記事は民法・建築基準法等の一般的な制度情報をベースにした知識の整理であり、特定の取引や案件の内部情報を扱うものではない。個別の土地における通行権・掘削承諾の判断は、必ず弁護士・土地家屋調査士・司法書士など専門家に確認してほしい。
1. 私道の持分パターンをおさらいしておく
通行権・掘削承諾の話に入る前に、前提だけ簡単におさらいしておきたい。私道の持分は大きく「共有持分型」「単独所有(分筆)型」「持分なし」の3パターンに分かれる、というのはセットバックの記事で扱ったとおりだ。ここで押さえておきたいのは、この持分の形と、これから話す通行権・掘削承諾は必ずしも一致しないという点だ。持分がある土地なら通行も掘削も自由にできる、というわけではないし、逆に持分がまったくない土地でも、法律上の権利や慣行によって通行できているケースは珍しくない。だからこそ、持分だけを見て安心せず、権利の中身までひとつずつ確認する必要が出てくる。
2. 通行権とは?4つのパターンを整理する
私道を通行する権利、いわゆる「通行権」には、法律上の位置づけが異なる複数のパターンがある。仕入れ営業として現地・資料を見るときは、この違いを大まかにでも押さえておくと判断がぶれにくい。
まずは一番イメージしやすい「囲繞地通行権」について、土地の位置関係を図で見ておく。
※特定の土地を示すものではなく、囲繞地通行権の考え方を整理するための模式図です。実際の通行経路は、囲繞地のために損害がもっとも少ない場所を選ぶ必要があります。
1つ目は「囲繞地通行権」だ。民法第210条で定められている、周囲を他人の土地に囲まれた「袋地」の所有者が、公道に出るために囲んでいる土地(囲繞地)を通行できる法定の権利にあたる。これは契約や登記がなくても当然に発生する権利で、袋地であるという事実さえ満たせば認められる。ただし通行の場所・方法は、囲繞地のために損害がもっとも少ない経路を選ぶ必要があるとされており、袋地所有者が自由にルートを選べるわけではない。
2つ目は「通行地役権」だ。民法第280条に定める地役権のうち、通行を目的として設定されるものを指す。要役地(通行させてもらう側の土地)のために承役地(私道側)を通行の用に供する権利で、こちらは当事者間の設定契約によって発生する。登記すれば第三者にも対抗できるのが実務上のポイントで、登記されていない通行地役権は、私道の所有者が変わったときに主張しづらくなるリスクを抱える。土地の売買を検討する際は、登記簿の乙区(所有権以外の権利)に地役権の登記が入っているかどうかを確認する価値がある。
3つ目は「契約による通行権」。私道所有者との間で賃貸借契約や使用貸借契約を結び、通行を認めてもらう形だ。契約書があれば内容は明確になるが、使用貸借(無償の貸し借り)の場合は借地借家法のような強い保護がなく、私道所有者の意向で終了させられる可能性がある点は覚えておきたい。
4つ目は「慣習上の通行権」。長年にわたって通行してきたという事実上の経緯だけを根拠にしている状態で、法律で明文化された権利ではない。裁判例上、事案によっては通行の利益が一定程度保護されることもあるが、地役権のような強い対抗力は期待しにくい。前の所有者と私道所有者との間で「暗黙の了解」として通行が続いていた、という私道は実務でも珍しくなく、そうした土地こそ権利関係を丁寧に確認する必要がある。
4つのパターンを並べると、発生根拠・登記の要否・第三者への対抗力の強さがそれぞれ違うことが見えてくる。
※一般的な考え方の整理であり、個別の事案での法的判断を示すものではありません。実際の強さは登記の有無や契約内容によって変わります。
境さんは、持分なし・通行地役権のみの土地では、まず地役権が登記されているかを確認するという。登記されていれば話は早いが、「昔からずっと通っているだけ」という慣習上の通行だと、そこで一気に慎重になる。前の所有者との関係で成立していた通行が、名義が変わった瞬間に揉めるケースは、仕入れの現場でもよく聞く話だという。(監修者・境さんのコメント)
3. 通行・掘削承諾書とは何か
私道に接する土地の売買では、「通行・掘削承諾書」という書類が出てくることが多い。名前のとおり、通行に関する承諾と掘削に関する承諾をセットにした書面で、私道所有者が発行し、私道を使う側(沿道の土地所有者)が保有するという構造になっている。
通行承諾は文字どおり私道を通ることについての承諾で、掘削承諾は水道・ガス・下水道・電気などのライフラインを新設・補修する際に、私道部分を掘り返すことについての承諾を指す。建物を建て替える際は上下水道管を私道の下に新たに通す、あるいは既存の管を補修する必要が出てくることが多く、そのたびに私道所有者の掘削承諾が必要になる場面が出てくる。承諾を得られなければ工事そのものが進められないため、建て替えを前提にした仕入れ検討では、通行以上に掘削承諾の有無が重要な論点になりやすい。
実務で特に気をつけたいのが、承諾書の「承継性」だ。前の所有者が私道所有者から通行・掘削承諾を得ていても、その承諾が新しい所有者に自動的に引き継がれるとは限らない。承諾書の条項に「本承諾は土地の譲受人にも効力を及ぼす」といった承継文言が入っていれば買主にも有効とされるのが一般的だが、そうした条項がない、あるいは承諾書自体が見当たらない私道もある。売主から提示された承諾書に承継文言が入っているかどうかは、契約前に必ず確認しておきたいポイントだ。
仕入れ契約では「決済条件」にしてしまうのが実務的
ここは仕入れ営業の実務としてもう一段踏み込んでおきたい。私道が絡む土地を仕入れる場合、通行・掘削承諾書を私道所有者全員から取得することを、売買契約の決済条件(停止条件)に組み込むのが実務ではほぼ標準的な対応になっている。承諾書が揃わないまま決済してしまうと、いざ建て替えの段になって工事を進められないという事態になりかねないからだ。
理由は建築側の事情にある。掘削承諾書が私道所有者全員分揃っていないと、建築施工会社がそもそも着工を引き受けてくれないケースが多い。上下水道の引き込み・補修は私道を掘り返す工事を伴うため、施工会社としては後々のトラブル(未承諾の私道所有者からの工事差し止め等)を避けたいという事情がある。つまり承諾書は「あれば安心」という程度のものではなく、建築確認や着工そのものを左右する実務上の必須書類だと捉えたほうがいい。
このため、私道の共有者が複数いる土地を仕入れる際は、売買契約書に「引渡しまでに私道所有者全員からの通行・掘削承諾書取得を停止条件とする」といった条項を入れ、承諾取得を売主側の義務として明記しておくのが定石になる。共有者の一人が連絡不能・非協力的といったケースもあるため、この確認・調整には想定より時間がかかることを見込んでスケジュールを組んでおきたい。
境さんは、私道が絡む土地では、まず「掘削承諾は全員分揃うか」を仲介会社に確認するところから始めるという。ここが曖昧なまま進めると、決済間際になって「一人だけ承諾が取れていない」となりかねない。契約書に決済条件として明記してもらうのは、仕入れ営業としてはほぼルーティンの動きだという。(監修者・境さんのコメント)
2023年の民法改正で何が変わったか
2023年4月に施行された改正民法では、「設備設置権」「設備使用権」が新たに明文化された(民法第213条の2、第213条の3)。これは、他の土地に囲まれてライフラインを引き込めない土地の所有者が、必要な範囲で他人の土地に設備を設置・使用できる権利を定めたもので、囲繞地通行権と似た発想の規定だ。所有者が不明または所在不明の私道であっても手続きを踏めば設備の設置・使用が可能になった点は、私道トラブルの解消策として注目されている。
ただし、この権利を使う場合も、私道所有者にもっとも損害の少ない場所・方法を選ぶ義務や、あらかじめ目的・場所・方法・時期を通知する義務があり、設置に伴う損害には償金を支払う必要があるとされている。「法律上は承諾不要になった」と単純に理解するのは早計で、実務では今も任意の通行・掘削承諾書を取得しておくケースが大半だ。承諾書があれば後々のトラブルを避けやすく、金融機関や買主にとっても安心材料になるためだ。仕入れ営業としては、この法改正を「最終手段としての法的根拠が整備された」程度に理解しておき、通常の取引では引き続き承諾書の有無を確認する姿勢でよいと思われる。
4. 私道の負担割合はどう決まるか
私道が絡む土地では、補修・舗装費用などの維持管理コストを誰がどう負担するかという「負担割合」の論点も避けて通れない。
共有持分型の私道であれば、民法第253条が目安になる。各共有者は持分に応じて管理の費用を負担する、と定められており、持分割合=負担割合という整理がもっとも素直な考え方になる。実務では、この持分割合に加えて「接道距離割」(自分の土地が私道に接している長さの割合)や「面積割」(所有する土地面積の割合)で負担を決めている私道もあり、必ずしも登記簿上の持分割合どおりに費用が分担されているとは限らない。
また、共有物の管理行為(補修・修繕など)は、共有者の持分の価格に従いその過半数で決定できると民法第252条に定められている。全員の同意までは不要という点は、いざ補修工事の話が出たときの合意形成のイメージとして押さえておくとよい。
私道の負担割合や修繕のルールが書面化されずに慣行だけで続いている私道もあり、過去に補修・舗装工事があった場合はその費用がどう分担されたかを確認しておくと、将来の負担イメージがつかみやすくなる。持分なし・通行地役権のみのパターンでは、そもそも維持管理を誰が担うのかという取り決め自体が曖昧なことがあるので、より丁寧な確認が必要だ。自治体によっては私道の整備費用に対する助成制度を設けているケースもあり、負担が気になる私道では道路管理担当課に確認してみる価値もある。ここで扱った維持管理費の負担割合とは別に、私道には固定資産税の納税義務と非課税申告という税金側の論点もあり、両者を分けて整理する考え方は私道の固定資産税は誰が払うかを解説した記事にまとめている。
5. 仕入れ営業目線でのチェックリスト
ここまでの内容を踏まえて、私道が絡む土地を検討する際に確認しておきたい項目を整理する。
- 登記簿(乙区)に通行地役権の登記があるか。ある場合は要役地・承役地の範囲、ない場合は囲繞地通行権が成立する袋地かどうか
- 通行・掘削承諾書の有無、承諾書に承継文言(譲受人にも効力が及ぶ旨)が入っているか
- 掘削承諾が個別の工事のたびに必要な私道か、包括的な承諾が得られている私道か
- 私道の負担割合(持分割・接道距離割・面積割のいずれか)と、過去の補修・舗装工事での実際の分担実績
- 私道所有者が複数いる場合、連絡が取れない・所在不明の所有者がいないか
これらは登記簿・私道に関する既存の承諾書・重要事項説明書を突き合わせないと見えてこない項目が多く、現地を歩いただけでは判断がつきにくい。私道持分やセットバックが絡む土地の資料の読み方は、セットバックの記事で扱った登記簿・測量図・道路査定図の確認と地続きなので、あわせて押さえておくと精度が上がる。通行・掘削の権利関係が不透明な私道は、最悪の場合、建て替え自体が難しくなり再建築不可に近い扱いになることもある。この見極め方は「再建築不可とは?主な原因と仕入れ前の見抜き方を測量士補の視点で解説」でも扱っているので、あわせて確認しておきたい。
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6. まとめ
私道が絡む土地では、持分の有無と通行・掘削の可否は別の論点として整理する必要がある。通行権には囲繞地通行権・通行地役権・契約による通行権・慣習上の通行権という性質の異なる4パターンがあり、権利の強さは発生根拠や登記の有無によって大きく変わる。掘削承諾は通行承諾とセットで語られることが多いが、建て替えの可否に直結する分だけ実務上の重みは大きく、承諾書に承継文言が入っているかどうかは必ず確認しておきたい。負担割合は持分割・接道距離割・面積割のいずれかで決まるのが一般的で、民法上は持分に応じた負担が原則になっている。
こうした権利関係の読み解きは、登記簿・図面・法令の基礎知識が組み合わさって初めて精度が上がる分野で、独学でも学べるが、範囲が広く関連しあっているぶん体系的に整理したほうが理解が早い人も多いはずだ。通信講座のカリキュラムでどこまでこうした論点をカバーしているかは、比較ページで確認できる。
出典・参考情報
- 民法第210条(囲繞地通行権)、第280条(地役権)、第213条の2・第213条の3(設備設置権・設備使用権、2023年4月1日施行の改正民法)、第252条・第253条(共有物の管理・負担)に関する一般的な法令知識
- 私道の通行・掘削承諾書の性質、承継条項の考え方は、不動産・法律関連メディアで広く紹介されている一般的な実務知識を編集部で整理したもの。個別の権利関係は物件ごとに異なるため、あくまで一般的な整理として参照
- 私道の負担割合(接道距離割・面積割等)の考え方、自治体の助成制度の有無は地域・私道ごとに異なるため、詳細は各自治体・専門家に確認が必要
- 本記事の実務論点は、不動産業界で一般的に知られている典型的なケースとして編集部が整理したものであり、特定の実在案件・企業を示すものではありません
※本記事は監修者(現役の不動産仕入れ営業マン、測量士補試験の受験生)の視点を交えた一般的な解説記事です。個別の土地取引における私道の通行権・掘削承諾・負担割合の判断は、必ず弁護士・土地家屋調査士・司法書士等の専門家にご確認ください。








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